日本の医療制度を語る上で欠かせないものに高齢者医療制度があります。高齢社会になったことで、社会保険制度について議論されるケースが、政治やメディアの場を中心に目立つようになりました。特に後期高齢者医療制度については、高齢者の医療を支える中核的な制度なので、活発な議論が繰り返し行われています。この制度を語るにあたっては、その利点や問題点を指摘することも大切ですが、まずは制度が成立するまでの歴史的経緯を理解しておくことも、必要不可欠でしょう。
後期高齢者医療制度が誕生する前までは、1982年(昭和57年)に制定された老人保健法に基づく制度によって、高齢者の医療が支えられていました。この制度の大きな特徴は、国と地方自治体の公的部分で3割、各保険者の基金提出金部分の7割で運用することに加え、医療保険の受給者本人にも一定の負担額を定めたこと。制度の目的が高齢者の医療費の伸びを抑え、財政健全化にあったからです。しかし実際には財政健全化どころか、高齢者の医療費は増え続ける結果となりました。そこで1999年(平成11年)に検討され始めたのが、後期高齢者医療制度です。
当時の政権与党内で、2005年を目途に年金・介護・後期高齢者医療を包括した総合的な枠組みを構築することが合意され、翌年には国会で審議がスタートします。その結果、75歳以上の後期高齢者を対象とした独立部分と、65歳から74歳までの前期高齢者を対象とするリスク構造調整部分を組み合わせることで、各党が合意。その後さらに、財政運営の責任主体や現役世代の負担の明確化、そして公平化を図ることを法案に盛り込んだ上で、2006年5月に与党の賛成多数で「高齢者の医療の確保に関する法律」(施行は2008年(平成20年)4月1日)が国会で成立しました。